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 悠一 さんインタビュー

神谷  悠一

かみや・ゆういち

早稲⽥⼤学教育学部卒業、⼀橋⼤学⼤学院修了(社会学)。専⾨分野はジェンダー・セクシュアリティ研究。「LGBT」を⽀援するNPO等の役員を10年間歴任し、2015年にLGBT法連合会事務局⻑に就任。これまでに一橋大学客員准教授や政府の検討会の構成員などを歴任。著書に『差別は思いやりでは解決しない ジェンダーやLGBTQから考える』(集英社新書)、「LGBT」当事者の松岡宗嗣さんとの共著『LGBTとハラスメント』(集英社新書)がある。

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日本のLGBT問題への対応は?

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性的マイノリティーの人(LGBT、またはLGBTQ)への理解を教育現場で広げるには、どうしたら良いのでしょうか。LGBT団体の全国組織であるLGBT法連合会の神谷悠一事務局長に聞きました。

LGBT法連合会とはどんな団体ですか。

L(レズビアン)、G(ゲイ)、B(バイセクシュアル)、T(トランスジェンダー)などの性的マイノリティが連帯して政策提言をするための組織です。
北海道から沖縄まで97のLGBT当事者、支援者、専門家による団体が集まった政策提言のための全国連合会です。2015年に発足し、2020年に社団法人化しました。ほぼ同時に結成された国会の「LGBT に関する課題を考える議員連盟」(LGBT議連)と連携しており、議連の会議にはオブザーバーとして参加させていただいています。

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全国の団体が連合したきっかけはどんなことですか。

「LGBT」という言葉は元々、L、G、B、Tがそれぞれ別のマイノリティーとして活動していたところ、連帯、団結をして社会的な力を発揮しようとしたときに掲げたもので、それぞれの頭文字を取って欧米圏で「LGBT」と言われるようになりました。
日本でも、2015年に法連合会ができるまでは、それぞれが部分的に一緒にやってきたこともありますが、恒常的にみんなでやることはあまりなかったように思います。
LGBT法連合会は、このような大同団結を在り方として示す団体、連合体としてとして発足したという意味合いがあります。もう一つは、政策提言をするときに、国会議員や役所から、「幅広い意見を集めて整理してほしい」「窓口を一本化してほしい」という要望もありました。2014年に国勢調査での同性カップルの集計に関して、6団体が共同で総務省に要請書を出しました。そのことをきっかけに、6団体が呼びかけて法連合会ができました。

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行政のLGBTに関する窓口はどこですか。

一応、内閣府に担当大臣を設けているという国会答弁がありますが、実態はあまり見えません。厚労省、文科省、総務省、法務省、さらに国土交通省なども関係します。担当部署が決まっている省庁もありますが、例えば文科省は決まっていません。小中高校なら初等教育局で、大学なら高等教育局で、それぞれの担当が対応するという状態で、総合的、横断的に見る視点が弱いですね。

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世界の中で、日本のLGBT問題への対応はどういう位置づけでしょうか。

私たちの上部団体であるILGA(International Lesbian, Gay, Bisexual, Trans and Intersex Association)は世界地図を作成しています。色分けをしていて、例えば性的指向の面から人権が一番侵害されている国が赤、一番尊重されている国は青です。日本は白です。十分な保護はされていない、不均一、または制限された保護しかなくて、不十分な状態とされています。
OECD(経済開発協力機構、38カ国)を対象とした調査で、法整備は回答した35カ国中34位、寛容度は回答した36カ国中25位です。先進国の中では日本は低いところにあります。今年のサミットで、岸田文雄首相が性的マイノリティーへの差別を撤廃することに、「完全なるコミットメント(関与)をすることを再確認する」と宣言されていますが、国内ではそれが全く見えない。G7の中で、差別禁止法がないのは日本だけです。

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教職員がLGBTと向き合うことの重要性。

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学校教育の中で、LGBTはどう教えられていますか。

まず、学習指導要領に全く入っていないという問題があります。教科書会社が工夫して、いくつかの科目に「LGBT」のことが書かれています。文科省から2015年4月に、「性同一性障害や性的指向・性自認に係る、児童生徒に対するきめ細かな対応等の実施について」という通達が出ていて、その通達をもとにした資料が翌年出ていますが、あくまで通達ですので、何かやらなければならないということになっていません。いじめやトラブルがあったときにどう対応しましょうということにとどまっています。個別的対応です。通達により教育現場の課題であるという認識は出てきたと思いますが、学校で教えられているかというと、必ずしもそうではない。文科省はそれ以降、認識が進歩していないことも問題です。

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LGBT教育の必要性をどう考えますか。

端的には、いじめの問題があります。ホモやレズだなどと言われていじめられている子がいるのではないか。その子たちは必ずしも当事者ではなく、典型的な男らしさ、女らしさにはまらない子へのいじめに使われる。それに対して、教職員が適切に対応できてきたかというと、必ずしもそうではない。場合によっては加担してしまうこともあるし、ちゃかして終わってしまうといったこともある。うまく対応できないので、いじめが助長されることもありえます。

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LGBTに関連するいじめがあった場合、どう対応すべきでしょうか。

いじめに適切に関与して、人をいじめたり、侮蔑してはいけませんということが大前提です。いじめの問題は例えばホームルームの時間とか、総合の時間で対応されていると思います。
「カランコエの花」(中川駿監督、2018年)という高校を舞台にした映画があります。「女子」高校生が「自分が当事者です」と養護教員にカミングアウトするのですが、その生徒のいるクラスだけ「LGBT」の授業をする。そうすると、生徒の中でうわさになり、だれが当事者なのかと探し始めてしまい、大混乱になります。結末もどんでんがえしがあり、当事者探しの先頭にいた生徒が深く傷つきます。それが象徴的だと思います。教育現場にいる方、これから教職員を目指す方にぜひ観てほしい映画です。
対応にあたっては基準、こうすべきだということは一定程度あるので、それを踏まえることが大事です。踏まえずに「個別対応」してしまうと、トラブルになってしまいます。対応の基本を知った上で、いじめに向き合うべきだと思います。

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原則、マニュアルはあるのですか。

例えば、奈良教職員組合と支援者団体が共同でサポートブックを出したり、法連合会がマニュアルガイドラインを作っています。教育現場はマニュアルが嫌いだと言われますが、マニュアルを知った上で応用していかないといけません。
性的指向などは個人情報であり、本人の同意を得た範囲、内容だけを共有することが必要ですが、その原則を知らないで、「親に共有します」ということになる。親は「LGBT」の子どもに対して嫌悪感がある場合が少なくありません。ある調査によると、「近所の人」や「同僚」といった関係性の中で最も嫌悪感があるのが、自分の子どもです。親に児童・生徒が当事者であるという情報を共有すると、ひどい場合では虐待の問題になるケースもあります。先生に相談したことが二次被害になってしまうのですね。ですから、あくまでマニュアルを押さえた上で、ひとりひとりの子どもによりそった対応を考えないといけません。

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教職員自身のLGBTへの理解度が個々人で違うと思います。教員養成課程では教えられるのですか。

学習指導要領に入っていない現状がある中で、まずは教員養成課程の中に入れていくことが急務です。「LGBT」について教えているかは大学や学部、教員の裁量になっている状況です。他の資格では、関係する講座を受講すること、あるいは資格試験の中に入れるとか試験に出題するケースが出てきています。社会福祉士の試験などです。教員もそれが必要だと思います。

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学校で、子どもがLGBT関連のトラブルにあった場合、相談できる窓口はありますか。

少しずつ増えてきています。
厚労省の補助金事業で「よりそいホットライン」という電話相談があります。無料(フリーダイヤル)で、24時間、365日、この「LGBT」など性の多様性の専門ラインを設置して対応しています。他にも自治体によってはライン相談などSNSを介した相談も受け付けています。インターネットで探して相談することができます。

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性別や性的指向に関連するアンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)を減らしていくために必要なことは何でしょう。

「LGBT」に関するアンコンシャス・バイアスが社会の中で多く存在する中、例えば「思いやり」で、気づかないことを気づいたり、思いやったりすることは難しいことを強調したいと思います。
自分で学んだり、他人に指摘されたときにそれを虚心坦懐に受け止めて自ら振り返る。個々の教員の皆さんの中にはそれを実行していらっしゃる方もいると思いますが、組織的にやるにはカリキュラムを組むとか、試験に出すとか、制度をつくる必要があります。制度がないと、人々の行動を変えることは難しい。個別にはできるかもしれませんが、集団として変えるには制度が必要です。

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学校、教職員に期待することは何ですか。

現在の日本では、性の多様性に悩んでいる子どもたちがどういう人生を歩んでいくかが、教職員によって大きく左右されるような状況だと思います。
学校に「LGBT」に詳しく、相談できるかもしれないという教職員が一人いるだけで、人生が変わるかもしれません。この分野に関心があったり、学ばなければならないと思っていたら、関連の書籍や情報はたくさんありますので、信頼できる情報源から学び、学校の図書室にそういう書籍を入れておくとか、「LGBT」を象徴する虹色のステッカーやバッジを置いておくなど、発信していただくことが重要ではないかと思います。
教職員がその場で全てを解決できなくても、専門機関、専門の相談機関なども増えてきていますから、そういう機関につなぐことだけでも十分意義があると思います。

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